これはある歯科医の、自らの破折した歯牙の経過である。
患者は50代の男性、以前より右上6の咬合痛を感じていた。最近自発痛もありデンタルを撮影した。近心頬側根に破折線とその周辺に透過像を認めた。2018.4のことであった。
2018.11 いよいよ痛みが強くなり補綴物とメタルコアーを除去した。デンタルにはより明確な破折部が確認できるようになった。
実際は懇親会後の酩酊した状態で、痛む歯冠を必死にジグリングした結果、嫌な音と一瞬の痛みの後にコアごと取れた。この後熟睡し翌朝血の付いた枕に驚いたことを少し覚えている。
しばらくして、スタッフに口腔内の写真を撮影してもらった。破折線は近心頬側根から口蓋根に及んでいるように見えた。
2018.11 食事の際にとても不自由なのでとりあえず破折片を除去することとした。浸潤麻酔までは順調だったが、破折片の除去が思うようにいかず、時間がかかってしまった。搔爬もうまくできず、破折部の処理もうまくはできなかった。自分でできることの限界を感じた。
破折片の先端が湾曲していたため、自分の手の入る方向からでは、近心頬側根にアクセスするのが困難なためだった。
その後、コアを築造して斬間的補綴を行いなんとか、2020.9頃までしのいでいたが、咬合痛などの症状悪化のため、もう自身の手には負えないと思い、信頼している先輩に治療をお願いすることにした。骨の治癒形態を見ると、紺屋の青袴みたいなことをと反省した。ここまでが私の破折歯の序章で、この後の経過は、また後日に報告させていただきたい。